Visual Dermatology Vol.19 No.12(2020年12月号)「Book Review」より
評者:飯塚 一(医療法人社団 廣仁会 札幌乾癬研究所,旭川医科大学名誉教授)
評者は,長年,乾癬を専門にしてきた経緯があるが,乾癬と掌蹠膿疱症をテーマにした本書を手にして,この2つの疾患についての,特に近年の進歩を幅広く網羅した充実ぶりに驚きを感じざるを得なかった.この本には,この2つの難治性皮膚疾患についての,現時点で想定されるあらゆる問題点とその回答,さらに具体的な治療指針が満載されている.
基本的に情報は箇条書きに整理されており読みやすい.教育的な典型例の写真が冒頭に収められているのも親切であるし,何よりも編集者を含め,各執筆者の最新の情報を入れ込もうとする熱意が素晴らしい.おそらく本書を読んだ後では,個々の医師は,日常診療における対処に相当の変容がおこると予想される.
通常,皮膚科医にとって乾癬や掌蹠膿疱症は,決して診断に難渋するような疾患ではない.ところが,一歩病態に入ると,たとえば生物製剤の劇的な有効性に現れてくる病態理解は複雑になる一方である.これらを適切に整理した具体的な根拠と対応の記載は貴重であり,一読して,進歩を網羅した理解の深さと幅広さに感銘を受けるところが多かった.
今はやりのAIの世界ではディープラーニングという一種のブラックボックス化が進行中である.医師にとって本当に必要なのは,病態に基づく無理のない自然な説明と理解であり,クラスタリングと称して答えだけを提示されても納得感が得られないのは自明のことである.患者一人一人は千差万別であり,この教本に,詳しく述べられている病態理解を前提とした具体的なアプローチこそが重要と思われる.
われわれ皮膚科医は,乾癬にせよ掌蹠膿疱症にせよシンプルな病像を想定することが多いのだが,そのバックにある巨大な,それも最新の情報を,治療まで含めて深いレベルで提示しているという意味で本書は貴重であり,広く読まれることが期待される.本書は確かに「病態の理解と治療最前線」の名前に値する情報量に富む立派な教本である.