総合医だけでなく高齢者医療に携わるすべての医師に読んでいただきたい

総合診療 Vol.25 No.6(2015年6月号) GM Library 私の読んだ本より

書評者:石橋幸滋(石橋クリニック)

日本は世界に類を見ない超高齢社会を迎え,地域包括ケアや介護保険など世界の最先端を行くケアシステムの構築が着々と進んでいる.医学においても,細胞の老化に関する科学的な解明が進み,老化を予防する研究はミクロの世界を越え,ナノの世界となり,それを活用するナノテクノロジーは日進月歩である.しかしその一方で,高齢者をどう診療していくかはまだまだ試行錯誤のところがあり,十分なエビデンスが蓄積されてはいない.
そのため,一般的な高齢者外来診療のテキストは,細胞の老化を中心に,生理学的な変化や生化学的な変化が人間に及ぼす影響や,老人特有な病気の解説が中心であり,老人を人として診ていく視点,社会的な存在としてケアしていく視点がやや弱いように思われる.
本書は,高齢者をどうケアしていくかという視点を基本にして,身体だけでなく,心や社会を診るという診療を日々実践されている先生たちによって書かれた本である.そのため,高齢者外来診療のテキストにありがちな,高齢者の生理学的変化を解説して,次に高齢者に多い疾病の概念,診断,治療という流れではなく,高齢者の外来診療における重要なポイント,そして問題点や注意点に関して,最初に十分な紙面を割いて解説している.
加えて,従来の外来診療のための医学書とは異なり,薬物治療中心ではなく,生活習慣改善や心身のケアに重点を置いた内容となっている.高齢者の薬物治療はきわめて難しく,小児と同じような配慮が必要と言われているが,その点をきちんと解説することに力を注いでおり,薬剤の種類や使用量を詳しく解説するよりも,使用上の注意に焦点を当てている.
また,ケアの視点を重視した本書ではあるが,専門医でも十分参考になる最新の治療や対応にも言及しており,医学生や研修医など高齢者診療の初心者から,すでに長い臨床経験を持ちながらスーパー総合医を目指すベテランにも読んでもらえる内容となっている.特に,初心者でも理解しやすくするために,外来診療のポイントを明確にすると共に,図や写真を多用し,わかりやすい内容となっている.
このように実際の高齢者の外来診療にすぐ役立つ内容となっているので,総合医だけでなく高齢者医療に携わるすべての医師に読んでいただきたい本である.