知識を頭に入れるのではなく,頭から出して使うための,画期的なOSCE型手術イメージトレーニング本!

PEPARS Vol.67(2012年7月号) BookReviewより

評者:小川令(日本医科大学形成外科)

手術室では様々なアクシデントに遭遇する.考えうるあらゆるリスクを手術前にシミュレーションして手術に望む.手術は術前のイメージトレーニングから始まっているのである.しかし,この思考過程を,これから手術を学ぶ若い医師に伝えるのは至難の業である.ある程度自分で経験して学んでいってもらうしかないものだと思っていた.だが,この本に出会って,その考えが誤りであることに気づいた.いわばこの教科書はOSCE(客観的臨床能力試験:通称オスキー)なのである.単なる教科書的な知識を得るのが目的ではなく,その知識をどうやって実践に使うか,に主眼を置いている.こういう発想の転換があるのかと驚いた.
最近ではOSCEが幅広く医学教育に取り入れられ,その有用性には疑いがない.自分でOSCEをやってみるとよくわかるが,目の前に提出された課題に対して,頭の中の断片的な知識を順序よく並べて,その問題を解決していくことは慣れないととても難しい.机の上では考えれば出てくる知識が,実践の場では出てこないことがある.この本は,手術の時に使う知識をいかに系統立てて利用するか,自分でトレーニングできる仕組みになっている.たとえば,腫瘍を切除しようとして大出血を起こしたときどうするか? 神経を切ってしまったらどうするか? 皮弁の色が悪いときどうするか? こういう課題に対して,著者は明確な回答を用意してくれている.さらに,このような課題を一連の手術シミュレーションの中に組み込んで課題をつくることにより,現実に即した手術イメージトレーニングになるのである.ぜひ,形成外科の教育に携わる医師にも使っていただきたい一冊である.
この本は,知識を頭に入れるための従来の教科書ではなく,頭の中にある断片的な知識を再構築して,頭から出す,というまったく逆の目的をもっている.こんな本に出会ったのは初めてである.著者である菅原氏,シリーズ統括の光嶋氏,そして中山書店の,柔軟で洗練されたアイデアと実行力に敬意を表するとともに心から感謝したい.形成外科手術教育の画期的な一歩になると確信している.