従来の書籍にはない,経験に裏打ちされた技術と判断が十分に感じ取れる
麻酔 Vol.65 No.8(2016年8月号) 書評より
書評者:鈴木利保(東海大学教授)
本書は,新戦略に基づく麻酔・周術期医学シリーズの7冊目にあたるもので,今回は『麻酔科医のための周術期のモニタリング』がテーマである。本書は「神経系モニター」「呼吸器系モニター」「循環器系モニター」「筋弛緩モニター」「パルスオキシメータ」「体温」の6章から構成されている。まず驚かされるのは,執筆者がそれぞれの領域の第一人者であることにある。本書からは彼らが臨床に情熱を注いでいることが容易に想像でき,従来の書籍にはない,経験に裏打ちされた技術と判断が十分に感じ取れる。
第1章:神経系モニターでは,BISモニター,聴性誘発電位,運動誘発電位,体性感覚誘発電位,視覚誘発電位,脳酸素飽和度モニターの6つのモニターについて,80頁も解説が加えられている。これらのモニターの歴史,原理,測定に影響を及ぼす因子,実際の臨床使用について分かりやすく解説されている。
本書の特徴は,解説が4行程度の箇条書きで簡潔にまとめられており,読みやすい工夫がなされていること,表,イラスト,写真,フローチャートを多用しており,表やイラストは2~3色のカラーを使用しているために,視覚的にも理解しやすいこと,各要所に「Column」欄を設け,最新情報を適宜収載していることが挙げられる。
第2章:呼吸器系モニターでは,カプノグラム,麻酔ガスモニター,経皮血液ガスモニター,人工呼吸器モニターを取り上げている。なかでも興味深いのは人工呼吸器モニターである。近年,周術期の患者呼吸管理が予後に影響を与えるとの報告があり,1回換気量,気道内圧の正確なモニタリングが必要になっている。本項では人工呼吸モニタリングの意味,換気量の測定,呼吸機能モニターについて明快な解説を加えている。第3章:循環器系モニターは,古典的な動脈圧モニター,中心静脈圧モニター,心拍出量モニター,非侵襲的心拍出量モニターに加えて,経食道心エコー法,携帯型エコーについて解説されている。経食道心エコー法の詳細については,紙面の関係上,成書に譲るとしてあるが,携帯型エコーの上手な使い方について述べられていることは有益であろう。第4章:筋弛緩モニターでは,その意義,測定法,刺激の原則とパターンについて解説されているが,何より理想的なモニタリング部位とセットアップ上の細かい注意点まで詳述されており,大変役に立つ。第5章:パルスオキシメータについては通常型に加えて進化型パルスオキシメータの原理,測定項目について詳しく解説を加えており,パルスオキシメータの進化が実感できる。第6章:体温は深部体温計,末梢温測定の2項目からなり,体温測定の意義と実際について詳しく解説している。また付録として,本書に掲載されているモニター機器は,メーカー情報を加えて写真入りで紹介されているのが役に立つ。
本書は,ベテラン麻酔科医のみならず,麻酔科専門医を目指す若手麻酔科医,臨床研修医,医学部学生にも一読してほしい本である。