手術テクニック習得のための股関節外科専門医必携の書
Orthopaedics Vol.26 No.6(2013年5月号) BookReviewより
評者:進藤裕幸(長崎大学名誉教授)
《整形外科手術イラストレイテッド》シリーズの5冊目として『骨盤・股関節の手術』が中山書店より上梓された.本シリーズでは,イラストレーションを主な媒体として手術手技を視覚的に明示することに力を注ぐ一方で,説明文を極力少量化してポイントに絞った分かりやすい解説にとどめていることが大きな特長といえる.整形外科領域の主要な手術を網羅する全10冊で構成され,手術手技を視覚的に認知し,その体得を可能にするバイブル的な手術手技教科書のシリーズである.
本書では,股関節へのアプローチとして普遍的な進入法に加えて寛骨臼骨折に対応する腸骨鼡径進入法が詳細に掲示・解説されている.さらに各論的な手術法が21項目に及び,関節温存手術11編,人工関節関連10編が取りあげられるなかで,とくに7編は各種の再置換術に関するもので,まさに時勢に対応した内容となっている.
股関節は深部に位置するため一般に術野が狭く,オリエンテーションがつきにくく,ビデオ等では鮮明な画像情報を提供することが困難とされる.しかし本書では,解剖学的に正確に作成されたきわめて明瞭で美しいイラストが存分に採用されており,イラストを主役とする本シリーズの本領を如何なく発揮している.加えて強調すべき注目点として“吹き出し状の囲い枠内”にきわめて簡潔・明快にまとめられた“手術のポイント”,“手術のコツ”,本書で新たに採用された“ピットホール”が添えられていることも読者には嬉しい贈り物である.多数の当該手術を通じて酸いも甘いも経験を十分に積んだ著者ならではの貴重なコメントが盛り込まれている点は,誠に実践的で効果的な特長であろう.
専門編集の労を取られた内藤正俊氏をはじめ,そして何よりもこの編集形式とその編集主旨に協力を惜しまなかった各著者の真摯な責任感と意気込みが伝わってくる名著といえる.また本書の股関節に関するあらゆる術式が27項目にわたって網羅されている点も,整形外科専門医としてさらに股関節外科専門医を目指す若手医師にとっては,手術テクニック習得のための必携書として本書を推薦するものである.
さらに付録のDVDには15項目の手術ビデオが収載されており,手術への臨場感を含めた立体的なオリエンテーションと各種インストゥルメントの使用法を具体的に理解する重要な助けとなっている.冊子中のイラストはあくまでも2次元での情報であるが,これをしっかりと頭にインプットしたうえでビデオを精観することで,読者は一挙に“著者並みの熟練者になった心地を体験できるかもしれない.
股関節外科医を志す人にとって本書が座右の書となることを願う次第であります.