評者:苛原 稔(徳島大学大学院医歯薬学研究部長・産科婦人科)
かつて中山書店から刊行された『新女性医学大系』は、産科婦人科学の膨大な領域を網羅し、刊行当時の最高水準の医学者によって執筆された、日本の産科婦人科学の知の集大成といえるシリーズで、他を寄せつけない堂々たる存在感があった。
このたび完結となった『Science and Practice産科婦人科臨床』シリーズは、ボリュームこそコンパクトになったが、知の集大成という『新女性医学大系』の系譜を確実に受け継いで企画されているのに加えて、総編集にあたられた藤井知行先生の高い見識から、近年の医療の流れであるEBMや各種ガイドラインとの整合性を重視する編集コンセプトを導入し、単なる知識の羅列でなく、産科婦人科学の本質に迫る構成と内容となり、ある意味で『新女性医学大系』を越える進化を遂げている。実地医家が診療机の上に置いて日常診療に役立てることも、産婦人科研究医や研修医が基礎から臨床までの詳細を知ることもできる、コンパクトにして重厚な素晴らしいシリーズといえる。
そのシリーズの最後に今回配本された4巻『不妊症』は、現代日本の生殖医学のトップリーダーである大須賀穣先生が専門編集され、最新鋭の研究者や実地医家を執筆者に選び、EBMに基づく膨大な知識をみごとに整理・解説しており、現在の生殖医学や不妊症学の全てを知る上で必要かつ十分な構成と内容である。生殖医学や不妊症学は生物学、基礎医学、臨床医学が複雑に交じり合う特殊で奥深い体系の学問である上に、治療には倫理や社会的な知識を要するなど、多彩な知識を適切に理解することが必要で、またEBMが得にくい領域でもある。それゆえ、EBMに基づいて多様な知識をわかりやすく解説する書物は得難い。この4巻『不妊症』はまさにそれを実現しており、生殖医学や不妊症を正しく理解したい医師や研修医、医学生や医療関係者に最適の必携書である。