動的外力によって生じた褥瘡の特徴や発生のメカニズムについて,症例で詳しく説明
臨牀看護 Vol.39 No.14(2013年12月号) 書評より
書評者:田中秀子(淑徳大学看護栄養学部教授)
体位変換の目的は,治療や処置に必要な体位を保持することと,同一体位による関節拘縮,循環障害,呼吸障害,褥瘡の発生を予防することである。通常,仰臥位から側臥位へ,また仰臥位から長座位へなどに,枕や毛布,クッション,スライディングシートなどの物品を用いながら,看護者の手によって行われる。
褥瘡が最も発生しやすい部位は仙骨部であるが,とくにファーラー位などでは仙骨部にずれを生じ,褥瘡の悪化をまねくとして注意が促されてきた。そのためファーラー位にしたときには必ず,体位変換で生じたずれを取り除くために,ベッドから身体を離して「背抜き」を行うことが推奨され,背抜きは浸透しつつある。しかし,そのほかの移送時や対象者の体位を変えるときはどうだろうか。看護者は“体位を変えること”に主眼をおき,そのときに生ずるずれへの配慮は十分とはいえなかったのではないか。
本書では,褥瘡の創の悪化(変化・変形)の原因が,不適切な体位変換,身体移動,ベッド操作やおむつ交換にあると指摘している。著者はこれまでも多くの症例を経験し,その症例の分析によって出された結論から体位変換の危険性について述べている。
看護職として非常にショッキングであったのは,「(人の手による)体位変換によって褥瘡が悪化する」という内容である。つまり,今までの体位変換の方法には,褥瘡創面へ悪影響を及ぼす動作が含まれているということである。著者は「静的外力」と「動的外力」について解説しているが,「静的外力」とは重力のもと,身体にかかる過剰な圧のことで,これは体圧分散寝具によって軽減できるものであるが,一方「動的外力」は身体が他の力によって動かされることによって生じる外力であり,例えば手を背部に滑り込ませるときに無理やり押し込むことによって生じる。高齢者などは,そのときに皮膚がよれ,重なり,それが褥瘡発生につながりかねない。この動的外力が問題であると著者は指摘している。看護職としては耳の痛いところであるが,悔しいかな現場の忙しい臨床では,それぞれの対象者の特性や疾患に適した体位変換は行われてはいないのが現実であろう。
本書ではこの動的外力によって生じた褥瘡の特徴や発生のメカニズムについて,症例で詳しく説明している。褥瘡があるときの体位変換の方法についてもわかりやすく言及されており,実践に活かせる内容になっている。
本書の内容は看護界に一石を投じるものである。褥瘡ケアの専門家ばかりでなく,広く看護や介護に従事する人たちにも必携の書である。
人の手によらない体位変換を
月刊ケアマネジメント 2013年10月号 Let’s read Booksより
褥瘡予防・治療の第一人者である著者の最新刊。褥瘡にならないために、これまで推奨されてきた「2時間おきの体位変換」に疑問をなげかけ、むしろ人の手による体位変換が褥瘡を悪化させていることを解き明かしている。
理屈はこうだ。人の手による体位変換は、体圧を受ける部位の移動と分散という「静的外力」を排除する。一方で、圧やずれという「動的外力」を創面に生じさせ、治癒に影響を与えてしまう。つまり体位変換が不要なのではなく、動的外力の影響を少なくした優しい体位変換の方法が必要ということだ。例えば人の手で行う際には、ポジショニング手袋やスライディングシートの使用したり、そのほか自動体位変換マットレス、ポジショニングピローの活用も提案している。
体位変換の意義について考察しつつ、実際の14のケースについて治療経過とケアのポイントを写真つきで紹介している。最新の褥瘡ケアを学びたい看護師はもちろん、介護職も参考になる一冊。