待望の皮膚悪性リンパ腫の最新解説書が登場
皮膚科の臨床 Vol.55 No.6(2013年6月号) 書評より
評者:石河晃(東邦大学医学部皮膚科学講座)
悪性リンパ腫ほど概念の変遷により病名分類が変化している分野は無いのではないかと思われる。近代では病理形態に基づく分類としてRappaport分類が長らく使用されてきた。しかし,免疫組織染色法の発展により表面抗原の解析が可能となり,T細胞B細胞など腫瘍細胞の由来が明らかにされ,T細胞性,あるいはB細胞性に大別するところから分類されるようになった。また,染色体転座などの遺伝学的解析手法の発達により,さらに細分化されることとなった。このように,解析技術の変遷とともに,あたらしい概念が登場してきた。
さらに,同じ病理形態であってもリンパ節発症と皮膚発症では予後が異なり,一般病理医と皮膚科医との問で認識のギャップも存在したため,散発的にリンパ腫に遭遇する可能性がある臨床皮膚科医にとって,非常に難解な領域であったと言える。しかし,それまでダブルスタンダードとして存在した一般病理分類(WHO分類)とヨーロッパのグループが中心となった皮膚リンパ腫分類(EORTC分類)が2005年に統合し,WHO-EORTC分類が発表され,さらに2008年にこの流れを汲んでWHO分類(第4版)が発表され一応の決着をみた。大きく変遷してきた疾患概念をみていると,せっかく覚えたことが突然使えなくなる危惧があり,次のような声がよく聞かれた。
「いつ勉強したらよいのか?」そして本書の発刊により答えが出た。
「それは今でしょう。」
少なくとも病理形態,免疫組織,遺伝子解析以外に革命的な解析手法が登場するまで現在の分類は踏襲されるであろう。これまでは,成書を勉強しようと思っても新分類に基づく日本製の良い解説書がなかった。英文では改訂を重ねている皮膚リンパ腫の単行本があるが,皮膚リンパ腫には人種差もあり,日本の実情にマッチした解説書の登場が待たれた。このたび,岩月啓氏教授の専門編集により,最新分類に基づく診療ガイドが皮膚科臨床アセットシリーズの13巻として発刊された。
これまでのリンパ腫分類の変遷の歴史から述べられ,新分類に基づく解説へと続く。それぞれ各論では皮膚リンパ腫のエキスパートが分担執筆し,豊富な臨床写真,病理写真によりわかりやすく解説されている。また,岩月教授が世界に発信してきた種痘様水庖症様リンパ腫がWHO分類に取り入れられ,本書においても詳説されていることは特筆すべきと思われる。これまでのリンパ腫の教本は診断と予後の記載に特化しているものが多かったが,治療についてもかなりのページ数を使って具体的に記載されており,日常診療においてリンパ腫の診療をする可能性のある皮膚科医の必携の書として是非おすすめしたい。