カンファレンス形式の肩の凝らない,しかしレベルの高い泌尿器科腫瘍の病理「読本」
泌尿器外科 Vol.26 No.6(2013年6月号) 書評より
紹介者:塚本泰司(札幌医科大学泌尿器科名誉教授)
カンファレンス形式の肩の凝らない,しかしレベルの高い泌尿器科腫瘍の病理「読本」が刊行されました。待望の一冊といえます。専門医を目指す若手泌尿器科医にとっては,専門医試験の「ヤマ」でもあるそれぞれの腫瘍のトピックについての「ツボ」を押さえた記載が役に立つでしょう。また,指導医クラスの泌尿器科医にとっては日常臨床での知識の再確認と若手の突っ込み質問も難なく寄り切るためのリファレンスとして,大いに利用できそうです。
泌尿器科専門医のトレーニング中に一定期間臨床病理を学ぶことは大切なことと思われますが,それをはっきりとした形で修得目標として掲げ,実践している施設は少数派です。かくいう小生自身もそのような形で臨床病理を学んだわけではありませんし,属していた施設でもシステムとして提供していたわけではありません。残念ながら,見よう見まねで学習していたというのが実情と思われます。それでも,最近は臨床病理医が以前と比較すると増加しているので,施設によっては泌尿器科腫瘍の病理所見をカンファレンス形式で泌尿器科医と病理医の間で検討される機会が多くなっていると思われます。しかし,病理医が常駐していない施設も多く存在します。
これまでも,泌尿器科病理に関する書物はありました。例えば,有名なものではAFIP(Armed Forces Institute of Pathology)のシリーズ,WHOのPathology and Genetics of Tumors of the Urinary System and Male Genital Organs, あるいはUrologic Surgical Pathology(Bostwick DG, et al. 良性疾患も含む)など。また,Campbell-Walsh’s UrologyあるいはComprehensive Textbook of Genitourinary Oncology(Scardino PT, et al)のそれぞれの悪性腫瘍の病理の項目,などです。特に,AFIPやWHOのシリーズはミクロの所見が豊富で,どこかの時点で,どこかの項目を一度は目を通すことをお勧めします。しかし,忙しい専門医研修の最中に1ページ目から読むのはちょっとしんどいか,という感じもよくわかります。その前に,手術方法など覚えることは山のようにありますよ,という声も聞こえてきそうです。
しかし,泌尿器科腫瘍のbiologyを理解するためには,これらの腫瘍の病理学的所見の妥当な解釈を身に着けておくべきであるという説明には多言を要しないと思われます。そうであるならば,今回刊行された本書はその契機となること請け合いです。本書を土台にここから本格的な研讃の道に入ることは容易です。
本書の特徴のいくつかは先述したとおりですが,組織の顕微鏡写真と放射線関連の画像が豊富なのもそれに追加されます。その割に本書の価格が1万円前後と「良心的」なのは,編集者の交渉術の賜物なのか,中山書店の「太っ腹」さなのか,はたまた「泣いた」のか,どちらかでしょう。この種の本にしては文献が豊富なのも,内容あるいは構成が良質である証拠でうれしい限りです。摘出標本のマクロの写真はいざという時に限って適切なものがないのが通例ですが,次回の改訂の際には,可能であればホルマリン標本写真ではなく摘出時のものを掲載してもらえればと思います。
いずれにしても,若手泌尿器科医あるいは指導医クラスの泌尿器科医にとって,臨床的に有用なリファレンスができたことは間違いありません。Journal of Urologyの書評の最後に時々あるように,“This book is highly recommended for residents in urology and senior urologists who are responsible for their training.”です。