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救急・集中治療アドバンス  急性呼吸不全

救急・集中治療アドバンス  急性呼吸不全 published on

呼吸管理に精通している先生方が直面している臨床に結びつく身近な1冊

救急医学 Vol.40 No.12(2016年11月号) 書評より

書評者:松田兼一(山梨大学医学部救急集中治療医学講座教授)

本書の書評を依頼された直後に藤野教授と某所でお目にかかった。書評依頼されたことを告げると,笑顔を浮かべながら,しかし鋭い眼差しで「あの本は本気で作りました」と言われた。その眼差しを見て本気で書評をしなければたいへん失礼に当たると感じ,その日から本書をじっくりと読みはじめた。
急性呼吸不全に関する書籍は多く出版されているが,本書がそれらとまったく異なる教科書であることは,読みはじめてすぐに理解できた。本書のはじめに取り上げている項目が「ARDS」であることからもそれをうかがい知ることができる。つまり本書は初心者向けの教科書ではなく,呼吸管理の専門家向けの書である。最新の知見が本当にわかりやすく解説されている。さらに,図表や写真がふんだんに使用されており,いつの間にか本書に没頭している自分に気がつく。
本書の特徴はカラフルな本文と全ページにわたってサイドノートを設けているところであろう。専門家に対する質の高い教科書にもかかわらずカラフルで,藤野先生の風貌から想像し難いくらい(?)美しい。写真・イラスト・フローチャートを多用して視覚的にも理解しやすい構成になっており,一見すると初心者向けの,専門家にとっては物足りない教科書に見える。もちろん中身は本物である。よく理解しているので斜め読みをしたい箇所においてはサイドノートとコラムのみ拾い読みし,本文は読み飛ばせばよい。それだけでもかなり楽しい知的作業である。通読して感じたことであるが,教科書を作成する際には通常,編者が分担執筆者をまず選出し,選出した執筆者から依頼原稿を集め一冊の本にする。その際,依頼原稿に編者が手を加えることは少なく,できあがった本としては章ごとの質のバラツキが認められることが正直いって多い。しかし,本書においてはどこを取り上げても一定以上の質が担保されている。これは編者の卓越した分担執筆者の選定と,集まった原稿に対して編者として並々ならぬ情熱を注がれた結果と拝察する。
本書は集中治療と救急医療の幅広いニーズにこたえる新シリーズの第1弾として配本されたもので,呼吸管理に精通している先生方が直面している臨床に結びつく身近な1冊であり,心から推薦することができる。本書を通読して,今後続くと予告されている『炎症と凝固・線溶』『急性肝不全・急性腎傷害・代謝異常』への期待も大きく膨らむところである。