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精神科医のためのケースレポート・医療文書の書き方 実例集

精神科医のためのケースレポート・医療文書の書き方 実例集 published on

医局に必ず揃えたい1冊!

日本精神科病院協会雑誌 30巻 10号(2011年10月)書評より

評者:吉永陽子(長谷川病院 院長)

読んで字のごとし。第1章は日本精神神経学会専門医,精神保健指定医資格を目指しているのであれば,一押しである。筆者はよき先輩に恵まれたおかげで,こういったガイドブックを読まずして幸いにも試験に合格できた。合格後にこういった本が医局に置いてあり,「なあんだこのようなものがあるのだな」と目を通してみたが,しごく簡便で,本を読んだという保証・お守りにはなるかなという印象であった。しかし,本書は,本格的であり,丁寧な指導が行き届いている。これは,もっと早く出版してほしかったと思う。しかし,指導する立場に立ったいま,その意味でもおおいに参考になった。

第2章以降は,精神科医として働くうえで医療文書作成が必要となった場合は,必携の書である。実用書としてすべてが網羅されている。これがあれば,今後の仕事が能率的に進むに違いない。

そして本書には単なるHow to本を超えた醍醐味がある。まず,執筆者一覧をごらんあれ。そうそうたるメンバーが並ぶ。単著で何冊も出版なさっている方々ばかりである。歌舞伎で言えば,襲名披露の口上や年始の顔見世興行のような,きらびやかな華やかさがある。それだけでも読みたい気持ちになる。いまさらながら,筆者ごときが恐れ多くも書評を書いてよかったのだろうかと気が付いた。

次に症例が面白い。しばしば本の体裁を整えるために創作された症例があり,できレースのようで胡散くさいことがあるが,ここに登場する症例は,臨床に即して実践的である。いくつかは治療のヒントにもなった。治療を書類作成という角度から見直してみることの大切さに気が付いた。日ごろの不勉強を改め精進し,“実るほど頭を垂れる稲穂かな”のようにありたい。


医療文書を書く際の基本姿勢から懇切丁寧な各論を掲載 さまざまな場面を想定した実例を網羅

精神医学 53巻 11号(2011年11月号) 書評より

評者:尾崎紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学)

精神科医は医療文書を書く機会が多く、さまざまな医療文書が書けるようになると、何となく一人前になったような気がしてくる。ところが、医療文書の書き方についてトレーニングを受けたかというと、その記憶がない。また、「書き方」を教えてくれる書物も、昔はなかったように思う。

ローテート研修医時代、先輩医師から「紹介状を書いておくように」と言われ、カルテに挟んである紹介状を参考に、「見よう見まね」で書き始めた。精神科研修を始め、初診に陪席して紹介状の実例をいくつか目の当たりにし、「精神科医による紹介状の書き方」を学び始めた。さらに、診断書も、先輩精神科医の診断書をまねることが修行であった。

自分が初診担当医になり紹介状を読んで方針を考えたり、提出された診断書を参考に復職の判断をする立場になると、「この紹介状は、当方に何を求めているのか不明瞭だ」「この診断名は果たして妥当か」などと思うようになった。一方、「人の振り見てわが振り直したか?」と問われると、無反省に医療文書作成を「日常業務」としてこなしているのが現状であった。

そんな折、本書を目にした。何より、文書作成への基本姿勢が徹底している。たとえば、紹介状について、「筆者の医師としての人格なり、力量が常に測られることなのである。あだやおろそかに紹介状は書けない(鈴木二郎先生)」。診断書に関して、「文書の出だしはすべからく『いつも御世話になっております』と書き始めている。(中略) 精神科医全体を代表して、今までのすべてのご迷惑をお詫びするという口調のほうが、良い連携を生む。(中略) そして『ご不明な点があれば、いつでもお問い合わせ下さい』と保障し、文書を締めくくって署名する(一瀬邦弘先生)」。

当方も襟を正し、先達の方々から医療文書の書き方をご教示いただける書物である。基本姿勢の呈示とともに、懇切丁寧な各論があり、さまざまな場面を想定した医療文書が網羅されている。加えて、専門医・認定医のケースレポートも、多数の例を用いて、解説されている。

「本書が修業時代にあれば、どんなによかったろう」と思った筆者の提案で、当科医局用に2冊購入を決めた。今後の教育に活用する予定である。

さて、本書中の診断名はICDとDSMが混在しているが、精神科関連の公的文書がICDを基本としているため、ICDも残さざるを得ない点はあろう。一方、精神医学の診断体系として世界的に一般化しているのはDSMである。本書の「診断書に関する基本姿勢」の項目で、「精神症状を連ねるより、いつも使っているDSM-IV-TRの第5軸を用いた方が良い(一瀬邦弘先生)」と、紹介されているGAFは精神科病棟の入院基本料算定の根拠としても使われ始めた。精神科診断体系がICDとDSMのダブルスタンダードであるわが国の現状は、何かと混乱のもとである。たとえば、本書中、「専門医・認定医のケースレポート」では「情緒不安定性パーソナリティ障害」だが、紹介状では「境界性パーソナリティ障害」となっている。精神科医以外には、「情緒不安定性パーソナリティ障害」と言われても何を指すのかわからないのではないだろうか? さらに、DSMで採用されている多軸診断の概念が、ICDには欠如しているため、わが国では十分浸透していない。

将来的に、精神科の公的文書でDSMが採用され、専門医・認定医のケースレポートもDSMに基づいて書くことになり、本書改訂版ではDSMに統一され、「DSMの使い方に習熟した精神科医」が増えることを期待している。