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癌診療指針のための病理診断プラクティス 食道癌・胃癌

癌診療指針のための病理診断プラクティス 食道癌・胃癌 published on

画像診断,免疫組織化学などが普及した今日,時宜を得た書

胃と腸 Vol.47 No.9(2012年8月号) 書評より

評者:恒吉正澄(福岡山王病院病理診断科病理部長・検査部長)

本シリーズの総編集を担当する青笹克之先生はユニークな感覚をもって人体病理学に取り組んでいる病理学者である.青笹先生の提唱されたPAL(pyothorax-associated lymphoma 膿胸に随伴する悪性リンパ腫)は慢性の肺疾患である肺結核に伴う悪性リンパ腫で,1例を丹念に解析された後に,長年の忍耐強い疫学調査を基盤に解明されたものである.1例1例の診断の重要さを物語っている.
この「病理診断プラクティス」の各シリーズは臓器別に取り扱われ,写真,シェーマ,図・表を駆使した実践的なアトラスの面と,各疾患を系統的に解説する教科書的な面を併せ持つ力作である.写真は大半が光学顕微鏡のヘマトキシリン・エオジン(HE)染色の組織像であるが,X線写真,内視鏡写真,肉眼写真なども積極的に取り入れ,また随所に免疫組織化学写真も加えられている.
医学・医療の高度化に伴い専門化が進み,各領域の専門性が要請されるが,大局的に物事の全体を把握することも必要である.病理組織診断は治療方針の決定に大きく関与する.本書は病理診断医が腫瘍の診断の現場で最も知識・情報が必要とされるテーマについて,その道のエキスパートが診断の真髄を披露し,明日からすぐに診断の役に立つシリーズを目指して企画されたものである.

病変を臓器別に配列
本シリーズは臓器別にまとめてあり,診断に到達するまでに必要な経緯として,「病理診断の流れ」,「診断のための基礎知識」,臨床医も加わり,写真とシェーマを豊富に用いた「診断のポイント」,「鑑別診断のフローチャート」が簡明に記載され,「臨床所見」,「病理所見」,「悪性度,予後」,「鑑別診断」などの項目に沿って,読みやすく整理されており,判りやすい.また,重要な項目は特に詳細に記述され,読者への配慮が感ぜられる.

類似疾患について理路整然と鑑別
本書では癌の診断に到達するのに臨床像,X線像,組織像,免疫組織化学所見を総合した判断が大切なことが強調されている.その一つとして,鑑別診断の項目に力点が置かれ,類似疾患について図表を駆使して理路整然と鑑別されている.この点は本書の一つの特徴であり,実践的参考書としての意義が大きいと思われる.

臨床医,若手病理医にも有用
本書は病理診断に携わる病理専門医のみならず,若手病理医さらに臨床医にも有用な参考書になると考えられる.実例を肉眼と組織のカラー写真にまとめて掲載し,また最後の章では実際の症例呈示により読者の興味が一層喚起される工夫がなされている.本書はやや厚めの書ではあるが,うまく利用すればpractical guideとして有用であり,また画像診断,免疫組織化学などが普及した今日,まことに時宜を得た書であると思う.

私事にわたって恐縮であるが,1985年,米国ニューヨーク市の留学先で骨腫瘍の世界的権威者Dorfman教授の言葉が印象深い.「大きなシリーズの例をまとめた論文も大切だが,未だ十分認識されていない数例を克明に解析した論文は貴重な価値がある.」診断病理医を志向している私は改めて一例一例の病理診断の重要さを諭され,その後,一年間近く,世界各地から送られてくるコンサルテーション例をディスカッション顕微鏡で同教授の指導の下,全例検鏡できた.

現在,一線病院の病理診断科の一人常勤病理医として臨床医と連携してチーム医療に携わっている中で,一例一例の病理診断の大切さを身を持って感じている.