手術手技を考え方から学ぶ指南書
整形外科専門研修で経験するほとんどの手術手技がl冊に凝縮
Orthopaedics Vol.30 No.9(2017年9月号)Book Reviewより
書評者:大川淳(東京医科歯科大学大学院整形外科学教授)
日本整形外科学会ホームページには専門研修にかかわるマニュアルが掲載されている.専門医としての研修の仕方が書かれているが,外科手技に関する記載は意外と少ない.医師患者関係やカルテの書き方,診断などについて細かくinstructionがあるものの,整形「外科医」は手術治療への参加は当然なので,細かな記載が少ないのかもしれない.治療基本手技としては,「ブラッシングやデブリドマンなど基本的創傷処置を正しく実施できる」と書かれているのみである.あとは,「運動器の基本的な手術手技(鏡視下手術を含む)に習熟し,実施できる」とある.基本的な創傷処置や手術手技を正しく実施するためには,まずその考え方を理解し,手技を学ぶ必要がある.現在では昔と違って,学部や初期臨床研修のあいだにシミュレーションセンターで外科手技のトレーニングを行い,メスの持ち方やハサミの使い方はとりあえず訓練されている.しかし,現実世界でひとたび手術台に向かえば,鉗子をどう使って皮膚を持ち上げ,どこから切開を始めればよいのか,頭の中が真っ白になってしまうこともあるかもしれない.
シミュレーションでは,正しいデブリドマンは当然教わるはずもない.一例ずつ違う開放創に対して,どこまでどのようにキレイにすればよいのか,はたと困るのが初心者である.しかし,本書をみれば,軟部組織の取り扱い方や開放骨折でのデブリドマンまできれいに図示されている.それ以外にも,本書では整形外科専門研修のほぼ4年間に経験するであろう,ほとんどの手術における手技が網羅されている.骨折に対するプレート固定や髄内釘から始まり,腱縫合,切断,骨軟骨移植などのどの部位にも共通する手技から,人工関節にまで及ぶ.部位別の手術書であれば導入部分に書かれている内容かもしれないが,1冊に凝縮されていることがすばらしい. 本書ほど,整形外科専門研修を始めるときの手術書として便利なものはないように思う.サブスペシャルティを決めていない若手にとっては,当然ながら経済的でもある.また,すでに進むべき道が決まった専門医であっても,当面のあいだは利用できるほどの内容を誇る.編集者の戸山芳昭先生が序文に書かれているように,本書とともに解剖書を座右に置けば,まさに鬼に金棒であろう.
整形外科に限らず,手術のトレーニングは将来VR(virtual reality)が一般的になるだろう. しかし,そうなってもなお,VRに向かって手を動かす前に覚えるべき,原理原則がある.イラストを中心に,きわめて豊富な診断画像,術中写真,動画を組み合わせた手術指南書である本書は,それを学ぶに必須といってよい.