精微な病理組織写真はもとより沢山の画像写真や簡明なフローチャートなどが豊富に掲載されている
臨床泌尿器科 Vol.70 No.13(2016年12月号) 書評より
書評者:筧善行(香川大学理事・副学長/医学部泌尿器科教授)
生検や外科的治療で得られた摘出標本の病理診断は,泌尿器腫瘍に対する集学的治療の根幹に位置する.従って,ここが脆いと治療戦略は組み立てられないことになる.恥ずかしながら私は,大学病院で研修を始めた当初,このような明々白々のことに気付くことなく新たな治療手技を身につけることにいそしんでいた.病理診断医が如何にかけがいのない存在であることを身に沁みて感じたのは,卒後10年ほど経過し,ある関連医療施設でお世話になった70歳を超えた老病理診断医師との出会いを通してであった.この先生は病理診断の報告書を作成するにあたり,手術時の所見や患者の病態などに関してしばしば詳細な質問をされた.時には手術室にも入ってこられたように思う.病理診断申込用紙に所定の記載をして,病理診断を待つだけであった当時の私にとって,病理診断を下すために病理医が大きな重圧を感じながら仕事をされていることを初めて感じた時であった.
本書は,泌尿器腫瘍に精通された我が国のトップ病理医の先生方と泌尿器科医が協働して編纂された泌尿器腫瘍病理の実践的指南書である.精微な病理組織写真はもとより沢山の画像写真や簡明なフローチャートなどが豊富に掲載されていることにも目を奪われるが,病理の先生方のpoint by point の明解で統一された記述にも感銘を受ける.また,泌尿器腫瘍領域で臨床上課題となっているcontemporaryな事項に病理医としてどのような支援ができるか,といった極めて実践的な記載が随所にみられる(例えば,腎臓癌における腎摘除標本では,腫瘍から離れた非癌部のサンプリングが将来のCKDの発生を予測するため有用であることなど).本書は二つの読者対象を特に意識している様に見える.一つは,これから泌尿器腫瘍をサブスペシャルティの一つとして考える若い病理診断医であり,もう一つは泌尿器腫瘍の奥深さに気づき始めた若い泌尿器科医である.特に後者に対しては,病理診断医が我々泌尿器科医に何を求めておられるかが丁寧に記載されている.本書を通して,病理診断医との双方向性の質の高い意見交換ができる泌尿器科医が続々誕生することを願っている.