視診がとても重要な領域だからこそ,豊富な臨床写真やイラストが生きてくる

JOHNS Vol.30 No.2(2014年2月号) 書評より

書評者:氷見徹夫(札幌医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座)

本書は10巻より構成される(ENT臨床フロンティア)シリーズのひとつである。「口腔・咽頭・歯牙疾患」をテーマとしてその日常診療に主眼を置いた内容で,鹿児島大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科教授の黒野祐一先生によって編集されている。まさに“多忙な臨床医でも読みやすく,臨床にすぐ役立つような実践的なものを”という本シリーズの方針通りで,充実した内容だけでなく,本の構成に関しても工夫が凝らされていて読みやすい本というのが第一印象である。
文字ばかりの成書も多いが,本書は臨床写真やフローチャート,表,グラフなど視覚に訴えるものが多い。特に執筆の諸先生が提供してくれた貴重な臨床写真は,基本的には視診が可能である口腔咽頭領域ではとても参考になる。また,本文の他にキーワードや注釈がサイドメモとして記されていることや,最近の話題や日常診療のコツをTips,Advicesなどにまとめていること,さらに患者への説明実例集やイラスト集まで掲幟されていることも本書の特徴である。
本書は領域別に3つの章から構成されている。
第1章は口腔疾患で,舌や口腔粘膜病変,性感染症についてはことさら局所写真が豊富でアトラスとしても使用できる。診断,治療に難渋することも多い口腔乾燥や味覚障害,口臭,舌痛に関しては,原因の鑑別診断や検査法,具体的な治療法がわかりやすく記載されている。
第2章は咽頭疾患で,急性咽頭・扁桃炎や性感染症などの炎症性疾患,睡眠時無呼吸症候群や扁桃病巣疾患などの扁桃関連疾患が中心である。手術適応や抗菌薬の使用法については,若手ドクターはもちろんのこと,専門医やベテランの先生まで参考になる。
第3章は歯牙に関連する疾患で,まさにわれわれの盲点を突いた内容だ。耳鼻咽喉科医なら一度は,診察して何かおかしいことに気づいたとしても,何の病気なのかわからずに歯科受診を勧めた経験があるだろう。歯科領域の代表疾患について述べられている点も特筆すべきことである。
本書にはさらに患者への説明書類実例集,説明用イラスト集がある。口腔咽頭領域の手術説明はもちろん,難治性口内炎や咽喉頭異常感症など比較的説明が難しい疾患についても患者用にわかりやすくまとめられており,これはクリニックにおいてもすぐ使えるであろう。イラスト集は中山書店のウェブサイトから画像をダウンロードできるようになっていて,早速手持ちのタブレットに保存したくなる。
視診がとても重要な領域だからこそ,豊富な臨床写真やイラストが生きてくる。臨床研修医から耳鼻咽喉科専門医,また口腔咽頭を診察する内科医にも役立つ臨床書。机上で読むだけでなく,診察室にも置いておきたい一冊である。