時間生物学研究の歴史とともに時間医学発展の経過と現状が記述されたユニークで魅力的な解説書
medicina Vol.50 No.8(2013年8月号) 書評より
評者:尾前照雄(国立循環器病研究センター名誉総長)
本書は「時間内科学」という大胆なタイトルで,時間生物学研究の歴史とともに時間医学発展の経過と現状が記述されたユニークで魅力的な解説書である.長年この分野の研究に情熱を注がれた著者自身の研究成果と見解がこの1冊に集約され,今後の発展についての夢が語られている.内科学の基礎である健康の保持と疾病の予防,診断と治療,リハビリテーションのすべての面で生体リズムに視点をおいた見解の発展が今後大いに期待されている.
Circadianという言葉は通常の辞書には記載がないが,“circa”は「約」,“dian”は「24時間」を意味している.この表現を最初に用いたのは1959年,米国ミネソタ大学のFranz Halberg教授である.彼は時間生物学(生体リズム研究)とともに「時間医学」という新しい医学概念の提唱者である.著者は長年同教授とも親密な関係を保ち共同研究を行い,本書の冒頭に彼の推薦の言葉が述べられている.
地球上の多くの生物は地球の自転周期にほぼ等しい約24時間周期のリズムを刻む体内時計をもっている.このしくみにより睡眠,覚醒のみならず,体温,血圧,心拍,神経活動,内分泌・代謝機能,免疫機能などの生活機能の概日(サーカディアン)リズムがコントロールされている.体内時計を制御している時計遺伝子が次々に発見され,時計関連遺伝子のリズミックな発現によって個体あるいは組織における種々の概日リズムが制御されると考えられている.その異常が睡眠障害だけでなく,血圧や心拍,糖尿病,肥満や高脂血症,がんなどの疾病発症と関連している可能性がある.中枢だけでなく末梢臓器を含め全身の細胞に概日時計システムが備わっていると考えられている.
本書の記述は時間医学研究の進歩にはじまり,24時間血圧記録が可能となってからの血圧日内変動をとり入れた高血圧の時間診断と適切な時間治療,糖尿病の時間治療,時間薬理という考え方と時間治療,抑うつ症,がん,急死などの時間治療,時間内科学におけるメラトニン治療への期待などが主項目に取り上げられている.最後に体内時刻とこれからの時間治療,生命とは何か?に関しての著者の見解と将来への期待が述べられている.
各項目ごとに内外研究者の多くの文献が紹介されていることも読者の理解に役立つことが多いだろう.