産科と婦人科 Vol.87 No.8(2020年8月号)「書評」より
評者:増﨑英明(長崎大学名誉教授/長崎大学附属図書館長)
産婦人科臨床全般を網羅する書籍が,中山書店からシリーズとして刊行されている.今回その第2巻『妊娠期の正常と異常』が,東京大学産婦人科学講座藤井知行教授の編集で出版された.最近の医学部学生が授業を受けるに際して参考とするのは,従前のような厚い教科書ではなく,学会などが刊行する「ガイドライン」本であることが多いと聞いている.ガイドラインの目的は,専門領域における医療の均てん化であり,それはそれで医療の質の担保やインフォームド・コンセントの普及に大いに寄与したところである.しかし日常的な診療に当てはまらない疾患や患者に遭遇した場合の対応については,十全な記述とはいえないとの指摘がー方ではなされている.「ガイドライン」本とは本来,医療者の知識習得のためというより,患者への説明に際して,最低限必要minimum requirements とされる医療水準の相互理解に資することを目的としている.そういう意味で,将来に向けた医学・医療を学ぶべき医学生や若手医師にとっては,「ガイドライン」本以外に,茫漠として広がる医学・医療の世界を,たとえ一端であっても見せてくれるような教科書がどうしても必要である.今回,産婦人科臨床を網羅するシリーズとして刊行中の本書は,そのような視点に立って,内容と執筆陣が厳選されている.これから成長を期待される医学生や研修医については当然のこと,すでに最先端で医療に関わっておられるベテランの先生方に対しても,御一読いただきたい医学書として推薦したい