ENTONI No.210(2017年9月号)Book Reviewより
書評者:加我君孝(東京大学名誉教授/独立行政法人国立病院機構東京医療センター・名誉臨床研究センター長/国際医療福祉大学言語聴覚センター長)
耳鼻咽喉科領域の各疾患のガイドラインは現在のところ合計何点あるのであろうか.本書の目次を開いて疾患の項目数の多さに驚かされる.知らない間にガイドラインの数は増えたというより爆発的に増加していることに驚かされると同時に,このうち個人が平均何点を所有して使っているのかが気になった.ガイドラインは数年おきに改訂されるので自分の持っているものが最新なのかも気になるところである.第1章の「耳・めまい」は23項目,第2章の「アレルギー・鼻」は10項目,第3章の「頭顕部・咽頭」は11項目,以上で44項目となる.これに加えて,本書を特徴づけている第4章の関連領域が16項目あり,トータルで60項目もある.欲しいガイドラインをどのようにして手に入れたらよいかと思ったら,付録に「ガイドライン等の入手先一覧」という便利な案内もあり,本書はガイドラインのカタログのようでもある.
本書の各疾患項目の「概要」をみるとその疾患の病態の特徴,診断や治療の指針が準備され,ガイドラインとして学会でオーソライズされて出版されている場合と,現在もガイドライン化に向けて途上にあるもの,ガイドライン化には道が険しいものまでさまざまであることがわかる.読者にとっての大きなメリットは各疾患がどのような扱いになっているか把握できる点がいい.このー冊で各疾患の現在の動向がわかる.恐らく既によく知って理解していることも少なくないと思われるが,気がつかなかったことに気づかされる点も長所である.他領域でもガイドラインが次々と出版されると同時に数年で改訂されることも新聞や雑誌の広告でよく知ることができる.第4章の関連領域としてSjogren 症候群,顎関節症,インフルエンザなどの疾患の他に高齢者の薬物療法,妊産婦・授乳婦への投薬についてのガイドラインが解説されており,身近な問題であるがどの程度注意してよいか知ることができるのはありがたい.
もしガイドラインを片っ端から買い求めたりすると大いに散財することになろう.しかし本書の付録の「ガイドライン等の入手先一覧」をみると大半がウェブ上に公開され,URLを通してみてダウンロードして手に入れられることがわかる.多くのガイドラインは冊子として出版されていると同時にウェブサイトで公開されているので必ずしも冊子を購入する必要はないと思われる.
小生もいくつかの疾患のガイドライン作りに参加したことがあり,その準備の大変さはよくわかっている.例えばSystematic Reviewはその1例である.恐らく今後ガイドラインは年々増加することになるであろう.一方厚生労働省の班会議では少数例しかなかった難治性疾患ガイドラインが公表されている.そのような現状を考えると本書は数年おきに改訂して超短時間にガイドラインを把握するカタログ的テキストとして毎年のように刊行されることが期待されるであろう.