公益財団法人 中山人間科学振興財団

代表理事ご挨拶

公益財団法人中山人間科学振興財団を代表して、一言ご挨拶申し上げます。

 当財団は「人間の生態や行動から、広く文化・芸術・宗教に及ぶ人間の営みを、医学・生物学や情報科学を基盤として捉える学際的研究を褒賞・助成し、人間に関するユニークな研究の育成を図り、さらに異なる学問・芸術など様々な分野の研究者に交流の場を提供し、それぞれ互いに刺激し合い、人間の科学として新たなる研究成果を期待するとともに、その普及を図ること」を目的に、1991年12月に当時の文部大臣の許可を得て、「中山科学振興財団」として設立されました。

 当財団の初代代表理事は株式会社中山書店の創業者であられた故中山三郎平氏です。1948年のわが国は太平洋戦争敗戦後の疲弊した状況にありました。この年の6月に、中山書店が設立されました。氏は「生命現象ならびに人間に関する諸科学の領域を、出版の手段によって開発し、これを普及すること」を中山書店創業の基本理念とし、その後中山書店は医学・生物学のみならず、より広い視野に立って、「人間の科学」に関する出版活動を継続してきました。「人間の科学」とは、永遠の課題である「人間とは何か」という中山三郎平氏の深い問いかけを科学的に解明するための基本的姿勢です。

 これまでの科学はゲノムに代表される様に、細分化を目指す研究が盛んに行われ、画期的な成果が続々と生み出され、「人間とは何か」の理解が深まっています。しかしながら、それほどまでの成果にもかかわらず、「人間とは何か」を真に理解する上では十分とはいえません。そのためには、これからも医学・生物学などの領域にとどまらない広く異なる領域からの優れた研究成果が求められています。

 このような観点から、2013年4月の当財団の公益財団化を契機に、財団の名称を「中山人間科学振興財団 (Nakayama Foundation for Human Science)」に改称いたしました。財団の名称変更に際しましては、小林登東京大学名誉教授(第二代代表理事)と村上陽一郎東京大学名誉教授(第三代代表理事)の深い御造詣と御尽力によるものでありましたことを申し述べさせて戴きます。

 実は1991年の当財団設立時に、財団の名称を「中山人間科学振興財団」として申請したところ、当時の文部省から「人間科学」という学問領域は存在しないので「人間」を削除するよう御指導を受けた経緯があります。「人間科学」は現在、わが国の社会で広く認知され、わが国の大学に「人間科学」を冠した学部・学科が散見されるに至っております。

これまで当財団は、人間の科学の研究に関する顕著な功績のあった者、および優れた研究の成果を挙げた研究者に対する褒賞(大賞、奨励賞)授与をはじめとして、「人間の科学」に関する研究支援などの事業を行って参りました。私たちが現在生きている時代は、焼き畑農業が始まった数千年前からの、あるいは蒸気機関が発明された1750年 から始まるとされる「人新世の時代 (Anthropocene)」とも呼ばれます。今や世界全体の気候変動や格差社会が顕著となり、人々の身体的健康、こころの健康、社会的健康に悪影響を及ぼしています。その影響は多くの人に及んでおり、わが国にも様々な課題が生じています。このような新しい課題に対処するためにも、「人間の科学」の研究は今後ますます必要であり、Artificial IntelligenceやDigital Transformationなどの新しい技術の人間化などを通じて、総合的な取り組みを目指す姿勢が問われています。

 「人間の科学」の振興を目指す当財団の基本姿勢と活動にこれからも多くの方の御理解と御支援を戴きたく、お願い申し上げます。

2023年1月

中山人間科学振興財団代表理事
国立成育医療研究センター理事長
東京大学名誉教授
五十嵐 隆

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