宮地良樹(京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長)
宮田成章(みやた形成外科・皮ふクリニック院長)
このたび,美容⽪膚科学の泰⽃である宮⽥成章博⼠と共同で「最新美容⽪膚科学⼤系」を刊⾏する運びとなりました.その最⼤の動機は美容⽪膚科学の理論と治療機器が⻑⾜の進歩を遂げるとともに,「メスを使わない美容⽪膚科診療」が主流となるトレンドのなかで,いまこそ美容⽪膚科診療を「サイエンス」として真摯にとらえ,流⾏やテクニックだけに流されない美容⽪膚科診療の裏付けとなるような普遍的な知識やスキルを体系的に網羅した完璧な教科書が必要だと痛感したからです.
エビデンスが重視されるいまの医学の時流のなかで,ともすると美容⽪膚科診療は治療法が⾒えてしまい,患者満⾜度が優先されるとともに多彩な外的環境要因が介在することから創薬などの臨床研究に⽐較して客観的評価の⼿法が定着しにくい側⾯があることは否めません.その間隙を突く形で,質の⾼くない技術や機器メーカーのマニュアルのみに依存した短絡的診療が横⾏し,⾃由診療であるがゆえに⾼額な治療費とともに美容⽪膚科診療に携わる一部の臨床医の学術リテラシーのレベルが低いことなども問題点として指摘されています.
本来,美容⽪膚科学は⽪膚科学や形成外科学の専⾨医が主導すべき審美医療であり,その素養や知識のない他科医が容易に参⼊できる現在の情況はいわば無政府状態と⾔わざるをえません.たとえばしみ⼀つを捉えても,診断がつけられない⾮専⾨医ほど各種治療を次々に試みることで出来⾼払いの恩恵を受けて収益が上がる構造になっています.肝斑ではなく後天性真⽪メラノーシスと正確な臨床診断ができる専⾨医はQスイッチレーザーでたちどころに治療を完結できますが,逆に診療報酬はその施術分のみに限られます.施術後の炎症後⾊素沈着も,接触⽪膚炎などの⽪膚科疾患との峻別が極めて肝要ですし,顔⾯解剖学を熟知せずにフィラー注⼊を⾏えば思うような効果が得られないばかりか重篤な副作⽤も惹起しかねません.このように美容⽪膚科診療は⽪膚科学や形成外科学の⾼度な知識とスキルのうえにはじめて成⽴する専⾨診療なのです.⽇本⽪膚科学会美容⽪膚科・レーザー指導専⾨医制度が⽪膚科専⾨医の⼆階建てに設定されたのもこのためです.
このような美容⽪膚科診療をめぐる現況を踏まえ,かつて編集者として参画した「最新⽪膚科学⼤系」の出版元である中⼭書店にその趣旨を⼗分ご理解いただいたうえでシリーズ発刊を依頼しました.共同編集をお願いした宮⽥博⼠は拝⾦主義に染まらずにニュートラルで穏当な美容⽪膚科の「こころ」を⼤切にされる,私が最も信頼を置く美容⽪膚科医のお⼀⼈です.幾度となく編集会議を重ねるなかで宮⽥博⼠が今回の美容⽪膚科学⼤系編纂の最適任者であることを改めて確信しました.2年間ほどで全5巻を完結する予定ですが,⽇進⽉歩の美容⽪膚科学の進歩をタイムリーに提供するアップデート版の刊⾏も視野に⼊れています.
本シリーズが最良の美容⽪膚科診療の社会実装とその健全な発展にいささかでも寄与できれば編集者としてこれに勝る喜びはありません.それが⽇本の医療における美容⽪膚科学のさらなる存在感とアイデンティティの醸成に最善の道だと信じるからです.
2023年
総編集を代表して 宮地良樹
京都⼤学名誉教授/静岡社会健康医学⼤学院⼤学学⻑
B5判/函入・上製/オールカラー/約280頁/本体予価 25,000円
タイトル | ISBN | 価格 |
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1.美容皮膚科学のきほん 専門編集:宮地良樹(京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長) |
ISBN:978-4-521-75011-8 2023年6月刊 |
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2.しみの治療 専門編集:河野太郎(東海大学医学部外科学系形成外科学教授) |
ISBN:978-4-521-75012-5 2023年6月刊 |
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3.アンチエイジングとスキンケア 専門編集:山田秀和(近畿大学アンチエイジングセンター副センター長) |
ISBN:978-4-521-75013-2 2024年4月刊 |
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4.しわ・たるみの治療 専門編集:中野俊二(中野医院・ナカノメディカルエステティック院長) |
ISBN:978-4-521-75014-9 2024年6月刊 |
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5.脱毛・にきびの治療 専門編集:宮地良樹(京都大学名誉教授/静岡社会健康医学大学院大学学長) |
ISBN:978-4-521-75015-6 2024年8月刊 |
※配本順,タイトルなど諸事情により変更する場合がございます.