シリーズ刊行にあたって

　皮膚科学は体表の変化を科学する学問であるため，身近でありふれた，しかし膨大な学問である．多くの立派な皮膚科学書が上梓され，日常診療の場で活躍している．すべての物には一長一短があるように，教科書は有用ではあるがどこかに物足りない点があるのも事実である．自分自身を振り返ってみると，教科書も参考にしながら，読み物的な書物も愛読していた．今から四半世紀前の読み物的皮膚科学書の中では，MOOKシリーズがお気に入りであった．MOOKというのはMagazine＋Bookの造語である．一冊で一つの疾患群を深く掘り下げてあり，全巻を読破した．その一冊を読むとその疾患群の全体像がつかめるのである．そこから得られた知識が，現在の私の皮膚科臨床を支えてくれている．

　このたび，最新の皮膚科学による新たなMOOKシリーズとして『皮膚科臨床アセット』を企画した．今から25年前に比べると，皮膚科学の進歩は目覚ましいものがある．当然知っておかねばならない新しい常識が急増している．それを頭に詰め込んでいくだけでも大変である．そればかりか，その新知見が得られた実験的・疫学的背景をも理解できていないと，その新知見の意味すらわからないということも多い．しかし，肩が凝ってはいけない．専門書，でも肩の凝らない読み物というスタンスで，日常診療に直結する視点に立った項目の選定を基調とした．さらに，Box，Topics，Adviceのコラムによる重要事項・関連事項の記載やKeywordでの用語解説などによって，より実践的な情報提供にも配慮した．

　アセット（asset）とは，財産・資産の意味である．本シリーズが読破されることによって，皮膚科学を志す読者の記憶の中に多くの財産が蓄積されることを願って命名された．各巻は各疾患群のエキスパートの先生方に専門編集をお願いし，皮膚科医が知りたいこと，また知るべきことを十二分に取り入れていただいた．2010年代の最新情報の詰め合わせとして，多くの読者の支持を得ることができれば幸甚に思う．

九州大学大学院医学研究院皮膚科学
古江増隆