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内科学書 改訂第9版

診療の基本である身体診察.第9版では,ベテラン医師による身体診察の解説をたっぷりと充実させました.

第8版にあった「内科学総論」部門,「循環器疾患」部門,「神経疾患」部門の身体診察項目を改訂,更新するともに「膠原病,リウマチ性疾患」部門,「腎・尿路疾患」部門,「消化管・腹膜疾患」部門,「肝・胆道・膵疾患」部門,「血液・造血器疾患」部門に身体診察に関する項目が新設され,経験を積んだ医師のノウハウが紹介されています.
「肝・胆道・膵疾患」部門の「肝疾患の身体所見と診察法」の項目では,9版から新たに始まるWeb連動企画”Learning More on the Web”(らんもあ)で動画も閲覧でき,書籍の解説をよりリアルに把握できます.

いくつかの慢性的な炎症疾患では,免疫グロブリンの一つであるIgG4が血清中に高値となり,あわせてIgG4陽性形質細胞が組織に浸潤しており,それらが炎症のある部位に共通して起こっていることがわかってきました.
そういった現象のみられる疾患を一括りにしてIgG4関連疾患と呼ばれています.2000年以降に,症例研究が積み重ねらたことで生まれた枠組みです.現在でも,基礎と臨床の両面からたくさんの研究が行われている,ホットな領域です.

第9版では,「膠原病・リウマチ疾患」部門,「肝・胆道・膵疾患」部門,「血液・造血器疾患」部門にIgG4関連疾患についての記述があらたに加わり,これまでの経緯,臨床での位置づけ,最新の知見などがまとめられています.

感染した微生物が,皮膚や消化管壁から侵入すると,マクロファージや好中球などによる感染防御メカニズムが働き始めます.これは,のちにB細胞やT細胞がかかわる「獲得免疫」にひきつがれる,初動の重要なステップで,「自然免疫」と呼ばれてきました.
この「自然免疫」にかかわるリンパ球が同定され,2014年ごろに「自然リンパ球」と総称されることが決まりました.炎症や自己免疫疾患,アレルギーの発症に重要な役割を担っていることもわかってきました.

第9版では,自然免疫と獲得免疫の関連や,自然免疫が働く過程で抗原パターンを認識するToll様受容体について,「内科学総論」部門,「感染性疾患」部門,「膠原病・リウマチ性疾患」部門,「アレルギー性疾患,免疫不全症」部門に,わかりやすく詳述されています.

一口に,「腹痛」といっても原因となる疾患はさまざまで,なかには,21世紀の医療をもってしても,致死率が50~70%にのぼる疾患があります.

このうちの一つ,「非閉塞性腸間膜虚血症」は,血圧低下や血管攣縮作用をもつ薬剤の服用が契機となって,末梢腸間膜に虚血が引き起こされる,きわめてまれな疾患です.
発症初期の身体所見が少ないことから診断が困難なうえに,進行が急速で数時間から数日のうちに死亡に至るケースが多く,介入時期の適切かつ迅速な判断が求められます.医療者にとって手ごわい疾患といえるでしょう.
非閉塞性腸間膜虚血症を含めた「腹部血管疾患」について,第9版では「消化管・腹膜疾患」部門に項目が新設されました.ベテラン医師による対応のつかみどころなど,多数の症例写真ともに最新知見が集約されています.

レーザーを細胞一つ一つにあてることで,細胞の種類を区別するフローサイトメトリーという検査法があります.この方法を用いて,造血器腫瘍の診断や分類を行うことが普及してきました.

第9版の「血液・造血器疾患」部門では,フローサイトメトリーの血液検査への最新応用例が詳述されています.さらに第9版から新たに始まったWeb連動企画”Learning More on the Web”(らんもあ)でも,たくさんの検査所見が閲覧できます.

また,リンパ節や骨髄の病理組織検査についても,第9版で項目が新設されたうえに,遺伝子検査,染色体検査の内容も大幅に更新されました.血液検査の最新事情を,どうぞ第9版で!

「しびれ」,「めまい」,「頭痛」.

これらの所見は,プロフェッショナルの医療者ならば,必ず相談を持ち掛けられることがあるでしょう.しかし,いずれも,原因となる疾患本態にたどり着くのは難しい所見といわれています.
まずは,患者さんの主訴がいろいろで,たとえば「しびれ」ならば「チクチクする」,「ピリピリする」,「ビリっとする」などと表現されます.その主訴を取りつきに,縦横無尽に走行する神経のどこにどのような原因があるのかを探索する,診察の長い道のりが始まります.

第9版の「神経疾患」部門では,神経を診るための基礎情報がすばらしく充実しました.まず,「神経の解剖と機能」の章が新設されました.続く,診断学の項目も大幅改訂され,神経所見を診るにあたって医療面接のスキルから診察検査法まで,スペシャリストが解説しています.明日からの診療に応用できる知識が満載です.

比較的患者数が多いにもかかわらず,発症メカニズムが確定できず,いまだに議論の続く病気は,いくつかあります.ウイルスの感染やアルコールの過度の常飲がなく発症する肝炎,非アルコール性脂肪性肝炎もそういった疾患の一つといえるでしょう.しかし,ここ10年ほどで,糖尿病や高血圧,脂質異常症などに伴ってみられることがわかりました.発症原因に,患者さんの生活習慣があることが強く示唆されています.

これらの知見を反映して,第9版の「肝・胆道・膵疾患」部門は,肝炎にかかわる項目が構成し直されたうえで,全面的に更新されました.特に非アルコール性脂肪性肝炎を含む「非アルコール性脂肪性疾患」の項目は,上記のような発症原因に関するこれまでの研究と最新知見をまとめ,検査画像,病理組織像,治療法などを網羅し,大幅増ページとなりました.

重篤化すると肝硬変,さらには肝不全や肝細胞癌へと進むことがわかっており,また患者数もだんだんと増えると推測される,注目の疾患です.第9版で,静かなる肝臓の語りに耳をかたむけてみませんか?

第8版が刊行された2013年以降これまでに,この二つの用語は,高齢者医療のキーワードとして定着してきました.

「高齢期にみられる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能の低下」をさして「サルコペニア」と呼ばれています.フレイルは,サルコペニアが原因となって起こる「身体的,精神・心理的,社会的な脆弱性」のことです.医療的な介入が,サルコペニアおよびフレイルの状態を改善へと導くことが報告されています.

2014年に日本サルコペニア・フレイル研究会が発足し,2016年に学会へと名称が変更され,またICD-10にも「サルコペニア」が採択されました.2017年にはサルコペニア診療ガイドラインもまとめられています.すでに,医師国家試験出題基準にもこれらの用語が収載されています.

第9版では,「内科学総論」部門の老年期疾患やリハビリテーション栄養の項目で,それぞれ老年医学,リハビリテーションの専門家が,現在の内科診療における位置づけや考えかたを解説しています.

「慢性疲労症候群」という病気を耳にしたことがありますか?興味のあるかたには,本書がきっとお役にたちます.

「疲労」というなじみ深い言葉で,ずいぶん前からあるような疾患名にも思えますが,米国で疾患として認知されたのが2015年ですから,まだ新しい疾患の枠組みです.
実は今でも,この病気の原因はわからないのですが,精神的ストレスや身体的な疲労が積み重なって,中枢神経に異常が起こり,発症すると推察されています.

症状は全身に及び,耐え難い疲労感,起床不快感,耳鳴り,筋肉痛などさまざまで,社会生活を送ることができないほどになります.
「慢性疲労症候群」と類似病態をもつ疾患「線維性筋痛症」の推定される潜在的な患者数は,200万人に上るとされています.診断される機会を逃し,心の病や怠けなどと考えられているケースもあるかもしれません.
「臨床症状」部門と「膠原病・リウマチ性疾患」部門に,今回の改訂で記述が加わりました.疲れを患う患者さんについて,適切な診断スキルがまとめられています.

第9版の別巻にある「基準値一覧」に,今回の改訂で“臨床判断値”という用語が加わりました.
似た用語に「基準値」や「基準範囲」がありますが,まったく概念の異なる用語です.

「基準範囲」は,健常者集団の95%を含む中央部分の測定値範囲をさし,「臨床判断値」は,この値を超えたら,治療介入すべきなどと考える臨床判断のためのしきい値です.診断閾値(カットオフ値),治療閾値.予防医学的判断値が含まれます.
「基準範囲」と「臨床判断値」では,少し値が違うこともあり,本書でも混同しないように注意が促されています.

消化管の管壁が膨らんで外部へ突出した状態を「憩室」と呼びます.このうち,とくに大腸にできる憩室では,食事の欧米化や食物繊維の摂取不足によって腸内圧が高い状態が続いてしまうことが原因のひとつと考えられています.
なんの症状もみられない場合が多いのですが,憩室部位に炎症や出血がみられることもあります.診断と治療の詳細は「消化管・腹膜疾患」部門をご覧ください.

さて,近年になり食物繊維にもう一つ,大切な役割があることがわかってきました.
食物繊維が腸内細菌のエサとなり,発酵されてできる短鎖脂肪酸は,腸管の上皮細胞にくっつくことで,腸管ホルモンの分泌を促し,エネルギーや脂肪の代謝にかかわっていることが明らかになりました.

これらの仕組みを治療に応用し,肥満症や糖尿病を改善に導いた報告もなされています.消化された腸の内容物と腸内細菌と腸管の上皮細胞が,しっかりとスクラムを組んで,健康へとトライ!
このすばらしいパフォーマンスの詳細は「内分泌疾患」部門にあります.

入院療養中の患者さんに行う静脈栄養についても,今回の改訂で,「リフィーディング症候群」という視点があらたに加わりました.

静脈栄養を受けている患者さんのなかには,極端に低栄養状態にある場合があるらしいのです.そういったかたが急に大量のエネルギー源をとってしまうと,体のなかでインスリン分泌の亢進,急激な細胞内への糖・電解質の移動,血中のリン,カリウム,マグネシウムの低下,などの劇的な変化が起こります.
それに伴い,心不全,呼吸不全,運動失調や錯乱など,重篤な症状みられることがあり,「リフィーディング症候群」と呼ばれています.

低栄養状態にある患者さんには,段階的に少しずつエネルギー源をとってもらうことが重要です.
ほかにも,どういった患者さんに静脈栄養を適応すればよいのか,主たるエネルギー源として適した栄養素はなにか,腸管栄養と静脈栄養とのすみ分けは?などのさまざまな課題について,現時点での考えかたが「内科学総論」部門,「代謝・栄養疾患」部門にまとめられています.

癌化学療法などにより好中球が減少した患者さんに起こる発熱で,感染に起因するとされる疾患です.1990年代には,細菌培養陰性の不明熱などとされてきましたが,2000年代の初頭にこの呼称が定着してきました.
感染が起因とされるものの原因菌が特定できるケースは少なく,広域スペクトラムの抗菌薬を投与して症状の軽快を目指します.適切に抗菌薬治療が開始されなかった場合,重篤化し,死亡に至ることもある疾患です.

第9版では,「感染性疾患」部門に新設された項目「特殊病態下の感染症」に記述が加わりました.リスク評価や抗菌薬治療のフローチャートなど,網羅的にまとめていただきました.

細胞の低酸素状態に応答するメカニズムの発見が,2019年のノーベル医学生理学賞を受けました.腎臓で発見されたこのメカニズムは,赤血球の産生を亢進するホルモンであるエリスロポエチンの分泌を促すことがわかっています.また,今では,この低酸素応答メカニズムは,ほぼすべての臓器の細胞に存在することも明らかとなりました.

腎臓では,塩濃度の感知も行われています.これは腎臓だけがもつ機能で,尿細管にある緻密斑(マクラデンサ)が,ナトリウムイオンと塩素イオンの濃度を検知し,生命維持に大変重要な血圧のコントロールに寄与しています.

第9版にも,「腎・尿路疾患」部門と「血液・造血器疾患」部門に関連の記述があり,この精巧な腎臓の働きがどのように営まれているのかがわかります.「内科学書」を糸口に,知識を深めてみてはいかがでしょう.

アレルギー性鼻炎や花粉症の患者さんに原因となるアレルゲンを繰り返し投与する治療法で,減感作療法とも呼ばれています.

アレルゲンの投与法には,皮下投与と舌下投与がありますが,皮下投与は2~3年以上の長い期間,通院のうえ行わなければならず,また重篤な副作用の報告があったことから,舌下投与が注目されてきました.
日本でも,2014年から舌下投与剤としてのアレルゲンエキスが発売されはじめ,現在,スギ花粉エキス,ダニエキスが市販されています.

第9版では,「アレルギー性疾患,免疫不全症」部門と「呼吸器疾患」部門に解説があります.

オレキシンは,1998年に同定された神経ペプチドです.当初は,絶食により発現が亢進することで摂食を促す作用が注目されましたが,その後,覚醒の維持に必須の因子であることがわかりました.

ナルコレプシーは,起きているべき時に突然眠りに落ちてしまうといった症状のある疾患ですが,この患者さんの髄液では,健常者に比べてオレキシンが著しく減少していることがわかったのです.その後,ニューロンの制御作用などから,安定した覚醒状態と健康な睡眠習慣のサイクルを維持するのに不可欠な因子とされています.
また,不眠症治療薬として,覚醒を維持するオレキシンの作用に拮抗する,オレキシン受容体拮抗薬が2014年から発売されています.

詳細は「内分泌疾患」部門に新設された項目「睡眠・覚醒制御とオレキシン」にあります.

肝臓から胆管を経て十二指腸に分泌される胆汁酸は,腸管での脂質の吸収を助ける働きが知られていました.

しかし腸管での吸収を助けるだけでなく,全身のエネルギー消費を高めることに関わっていることがわかったのです.胆汁酸は腸管内で腸内細菌によって色々に代謝を受けますが,その代謝産物には腸管内分泌細胞を刺激し腸管ペプチドの分泌を促すことでエネルギー消費を高めている作用があります.
胆汁酸の分泌を促す薬剤を投与しエネルギー消費を高めることが,肥満症やメタボリックシンドロームの治療へと結びつくのではないかと考えられています.

「消化管・腹膜疾患」部門と「内分泌疾患」部門では,新たな胆汁酸の側面を紹介しています.

第9版の「感染性疾患」部門では,アレルギー性気管支肺アスペルギルス症を含むアレルギー性気管支肺真菌症について,大幅に記述が増えました.

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の原因となるアスペルギルスは,私たちのまわりにはどこにでもいるカビの一種で,通常は人に悪さをすることはありません.
しかし,たとえば,気管支喘息の患者さんなどでたまたま吸入したアスペルギルスが,気道あるいは気管支まで入り込み,そこで発芽した菌糸に対してアレルギー反応が起こります.
きわめて強いアレルギー反応で,患者の好酸球とアスペルギルスの菌体要素が入り混じった粘稠な痰が粘液栓となって,気管支を拡張することもみられます.

新に解明されたアスペルギルスによるアレルギー反応のメカニズムやこれらを検査にとり入れた新しい診断基準,画像所見など,本書にまとめられています.

胃もたれ,心窩部痛など,消化管の異常を思わせるディスペプシア症状があるものの生化学的にも心理学的にも原因を特定できない状態を機能性消化管障害と呼びます.成人の6人にひとりは,慢性的な上腹部痛があるとされ,きわめてよくみられる症状といえます.

ほとんどの症例が,経過は長いものの生命予後良好であるので,実際に治療を始めるべきかどうかは,症状の強さによります.
2014年に,「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014ー機能性ディスペプシア(FD)」が公表されたことを受けて,第9版にも,その内容が反映されました.

「消化管・腹膜疾患」部門に,わかりやすくコンパクトにまとめられています.

1990年に,日本人によって報告された疾患で,英語でも,“takotsubo”cardiomyopathyと表記され,一般的には,“broken heart syndrome”としても知られています.

冠動脈自体には異常な狭窄などが認めれらないものの,左室の収縮期のエコー像が,心基部はよく収縮しているけれども心尖部は収縮しないために,形がまるで,たこつぼのように見えることからこのように名づけられました.
症状としては,心筋症のような突然の胸痛や呼吸困難がみられ,だいたいは速やかに回復します.情動ストレスと発症が関係する場合もあれば,ストレスがなくても発症する場合もあり,直接の原因はいまだ不明です.
疫学的には,高齢女性に多いことがわかっています.

第9版では「循環器疾患」部門に項目が新設されました.

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