1.平成30年度テーマ

「時間の心理と生理」

 ネズミもヒトも象も、同じ高さから同じ時間で地面に落ちるのが物理法則である。しかし「光陰矢の如し」「一日千秋の思い」「昨日は今日の昔」等々、同じ時間であってもあるときは短く感じられ、あるときは限りなく長く感じられる。「ゾウの時間・ネズミの時間」の著者である本川達雄氏によるとゾウはネズミに比べ時間が18倍ゆっくりなのだそうである。同じ人でも子供の頃に感じた1年と年齢を重ねたあとの1年は感じる長さが違うとも言われる。
 生物にとって時間(の長さ)とはどのようなメカニズムで感じられ、意識され、それが生体にどのような生理学的影響を与えているのであろうか。楽しみを待ちわびる場合と、待ち人が来ずにイライラしている場合とで、同じ時間を待つ生体内にどのような生理学的変化の違いがあるのだろうか。
 近年、脳の活動を測定する様々な手法を駆使することにより、ヒトが持つ時間の長さに対する感覚と脳反応との関係が明らかにされつつある。また時間感覚は生体の日内変動リズムにも強く関係しているが、2017年のノーベル生理学・医学賞が、体内時計を生み出す遺伝子機構の発見に対して与えられたように、体内リズムの分子機構の糸口も解明されつつある。
 そこで、本年度は、生物、とりわけヒトにとっての時間の短さあるいは長さに関する感覚と生理学的反応との関係や、それらの生成メカニズムに関する科学的研究を幅広くとりあげる。生命科学、生理学、脳科学だけでなく、臨床心理学や人文社会科学系の研究、またそれらの学際的な取り組みを歓迎するが、単に哲学的考察や純粋に理論物理学的研究などは対象外としたい。おそらく人間科学の永遠のテーマのひとつであり続けるであろう「時間の心理と生理」に科学的に取り組む優れた研究の推薦や研究計画が集まることを期待している。