「老化のヒューマンサイエンス」

 わが国では少子高齢化が進行し、100歳を超える高齢者が五万四千人を超えるようになった。2050年にはわが国の人口の約40%が65歳以上の高齢者で占められることが予想されている。しかしながら、生物にとって老化は避けがたい自然現象である。ヒトも他の動物と同様に、受精、出生、発育(成長)、成熟、衰退(退行)というプロセスを経て死に向かう。成熟した後の課程で生じる心身の変化を老化と呼ぶ。老化は一般的に生理的老化と病的老化に分類される。生理的老化は成熟した後に遅かれ早かれすべてのヒトに必ず生じてくる心身の変化で、普遍的かつ進行性である。生理的老化は白内障、難聴、筋力低下、関節の摩耗、呼吸機能低下、情動性衰退、閉経など、それまで可能であったことが不可能になる変化がほとんどで、ヒトにとって不利あるいは有害であることが多い。ただし、生理的老化には個体差が極めて大きい。一方、病的老化とは生理的老化の範疇を超えて病的な状況にまで至る現象で、高血圧、動脈硬化、糖尿病などの病型を経て脳梗塞、脳出血、心筋梗塞、網膜症、慢性腎障害(腎不全)などに至る。
 老化の原因として、遺伝子を構成するDNA配列の中に老化プログラムが組み込まれているとするプログラム説、細胞の再生課程に生じるDNA配列のエラーの積み重ねが生じるとするエラー蓄積説などが提唱されている。しかしながら、老化の確かな原因は未だ不明である。ヒトの寿命には個体差があり、長寿の家系が明らかに存在することから、老化の程度を決める因子として遺伝的素因が大きい。また、肥満、喫煙、運動、睡眠、社会活動なども老化に大きく影響する。
 細胞レベルの老化から、老化の社会的な領域の課題まで、幅広い「老化のヒューマンサイエンス」に関する世界的に優れた研究業績の推薦と、この分野における革新的で開拓的な新しい研究の応募を期待する。