どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい

ENTONI No.197(2016年9月号) Book Reviewより

書評者:佐藤公則(佐藤クリニック耳鼻咽喉科・頭頸部外科・睡眠呼吸障害センター)

 実地臨床の日常診療で遭遇する実践的なテーマを中心にとり上げ、診療実践のスキルと高度な専門知識をわかりやすく解説した実践的な《ENT臨床フロンティア》シリーズ10冊が創刊されて4年あまりが経過した。多くの耳鼻咽喉科医に愛読され好評を博しているシリーズであるが、その続編として『耳鼻咽喉科イノベーション』が刊行された。
 本書を手にしてまず思ったことはそのタイトルである。イノベーションとは経済学者J. Schumpeterにより、経済成長の原動力となる革新を指す広義な概念として用いられ、日本でもその概念で語られることが多い。しかし本来の英語としては、色々な分野における新しいアイデア、新手法、発明を意味する。本書を手にし、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の新しいアイデア、新手法が豊富に解説されていることに心を躍らせながら、本書を紐解いた。
 近年、ガイドライン、標準的治療にとらわれすぎているのではないかと思うことが多々ある。特に疾病に罹患した患者を最初に診察する開業医に、標準的治療が要求されているとも言われる。プライマリケアにおける外来診療は、患者に医療を施す第一歩である。診断能力の向上は、臨床医にとって日々研鑽し獲得すべきものであり、そのためにはガイドライン、標準的治療も有用である。しかし実際の臨床では、診断がついてもその病態は一様ではない。また複数の疾患、複数の病態が関与している場合もある。また診断に基づいた治療というよりも、病態に応じた治療が求められる場合もある。診断能力を日々向上させる努力は必要だが、一方で疾病を病態としてとらえ、疾病の病態をよく診る診療を行うことも大切である。その上で人としての患者を診る全人的医療を行うことが臨床医の使命である。
 病態に応じた治療を行うためには幅広い医学的知識と経験が必要になる。一人で診療を行うことが多い診療所の診療では独善的になる傾向があり、最先端医療の知識を得ることが容易ではなくなる。開業医に最先端医療の知識は必要ないという意見もあるが、私はそうは思わない。最先端医療を含めた幅広い医学的知識がなければ、病態に応じた治療選択肢を患者に提示できないばかりか、全人的な医療は行えない。専門医自身が自覚して研鑽に努めなければ、患者に最良の医療を提供できないばかりか、患者の信頼と他科からの信頼を得られない。
 そうは言っても実地臨床の現場では、最先端医療の知識を手際よく習得することは容易ではない。そのような中で耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域において研究・開発・実用化されているイノベーションの数々、改訂ガイドラインや最新の検査・治療法をはじめ、機器の改良・開発、新しい疾患概念などに焦点を当ててわかりやすく解説されている本書は、どの単元もコンパクトにまとめられ、どの単元から読み始めても理解しやすい。日々の診療でさらにステップアップを目指している開業医にとって、本書は良き指南書であることを確信する。