すべての周術期臨床現場にあってしかるべき書

麻酔 Vol.65 No.5(2016年5月号) 書評より

書評者:小川節郎(日本大学教授 )

 本書「麻酔科医のための区域麻酔スタンダード」は,監修者の森田 潔氏らが刊行している《新戦略に基づく麻酔・周術期医学》シリーズの第7冊日として発刊されたものである。森田氏による“シリーズ刊行にあたって”によると,本シリーズは周術期管理に焦点を絞り,麻酔科医の知識と技術の向上を目的とし,単なるマニュアル本ではなく,基礎的な生理学,薬理学などの知識を基にした内容にしたとあり,本書もまさにその理念に則ったものとなっている。
 本書編者の横山正尚氏も述べているように,最近の麻酔科領域でもっとも注目を浴びている分野は“区域麻酔”といっても過言でないであろう。特に超音波ガイド下神経ブロックの導入により,周術期の麻酔管理に大きな変化がもたらされている。ではなぜ今,“区域麻酔”なのであろうか。本書の第1章“区域麻酔総論”の中からその理由を抜粋すると,①超音波装置等の医療機器の技術革新により,区域麻酔の技術も急速に進歩したこと,②使用する薬剤の進歩により,区域麻酔の応用範囲が広がっていること,③近年においては周術期の課題が死亡率の減少から回復の質の向上にシフトしており,この観点からみて,区域麻酔は他の麻酔・鎮痛法と比べて有効性が高いとするデータが出てきていること,④高齢者の周術期管理においても,区域麻酔がさまざまな点で有利であること,⑤医療費の軽減に寄与する可能性が高いこと,などが挙げられている。
 本書では,現在行われている“区域麻酔”のすべてについて非常に要領よく,かつ,分かりやすく記述されている。主な内容を挙げると,第1章の“区域麻酔総論”は,なぜ今,区域麻酔なのか,区域麻酔の歴史,痛みの伝導機構と区域麻酔,区域麻酔の種類の4項目からなり,第2章の“区域麻酔で使用する薬剤”では局所麻酔薬の基礎的・臨床的知識を勉強でき,さらにオピオイドの使用法についても記述されている。第3章の“末梢神経ブロックに使用する機器の知識”では,超音波装置と神経刺激装置の基礎知識と使用法,テクニックなどが取り上げられている。以下,第4章は“周術期末梢神経ブロックの実際”,第5章は“超音波ガイド下末梢神経ブロック各論”と続き,第6章“硬膜外ブロックUp-To-Date”と第7章“脊髄くも膜下ブロックUp-To-Date”では,これまで行われてきたこれらの麻酔法に関する新しい知識が示されており,非常に興味深い。
 本書の特長は,また非常に実践的な内容であることである。分かりやすい多くの図表,超音波画像,手技の実際を示す写真により,臨床の現場ですぐに役立つ知識が得られよう。また,各項目には内容の基となった最新の文献がまとめられているので,さらに詳しく知りたい場合に非常に有用である。
 以上のように,本書は,いわば“区域麻酔のすべて”というべき内容から構成されていることから,すべての周術期臨床現場にあってしかるべき書であると思われた。