写真が綺麗で説得力があり,図表も多く診断のポイントが随所に記されている

消化器外科 Vol.36 No.1(2013年1月号) 書評より

評者:平田一郎(藤田保健衛生大学医学部消化管内科教授)

 従来より病理は基礎医学の範躊に組み込まれているが,人体病理は患者と直に対面しないものの診療を行ううえで重要な役割を有しており,臨床科として位置づけられるべきと考える。病理と臨床の間では,患者の病態に関する情報の共有と意見交換は常に綿密に行われるべきである。そうすることによって,適切な診断と治療が可能となり,また病気の本態に迫ることもできるといえよう。良き病理医は良き臨床医を育てるが,逆もまた真なりである。本書は正にそのことを具現化した名著であり,専門編集者である八尾隆史教授の見識と情熱がひしひしと伝わってくる。本書は,大腸癌の診断・治療に関する新しい知識やトピックスが余すことなく盛り込まれているのみならず,従来の病理学書と異なり,大腸癌に対する診断・治療の考え方,進め方が臨場感あふれ伝わってくるような内容構成である。
 本書の第1章では,大腸上皮性腫瘍を病理診断するにあたり治療方針決定に重要とされる因子を正しく評価すべきことが強調され,そこには常に臨床のニーズを理解しそれに真摯に厳しく向き合う編集者の姿勢が伺われる。
 第2章では,大腸腫瘍における基本的なHE診断に加え,免疫組織化学やゲノム解析などにおける新しい知見が解説されている。近年,大腸腫瘍に対する分子生物学的解析が,大腸癌の分子標的治療のみならず,その発育進展の解明,サーベイランス診断,予防的介入治療などに応用されつつあり,将来を見据えての内容となっている。また,ピットパターンやNBIなど内視鏡の拡大観察による大腸腫瘍診断と内視鏡的治療,大腸癌の病期分類による治療選択基準,外科・化学療法・放射線治療などに関しても第一人者の臨床医が新しい知見をまじえて詳細に解説している。これら知識は,病理医が臨床医とコミュニケーションを取るうえで有用である。
 第3章では,大腸SM癌の治療方針決定に重要な病理項目の評価法,鋸歯状病変,神経内分泌腫瘍などに関する内容が最新の知見とともに論じられている。
 第4章では病理検体の取り扱いが述べられているが,これらは病理医のみならず臨床医もぜひ知っておくべきである。切除標本の切り出しは,可能な限り病理医と臨床医がdiscussionをしながら一緒に行うべきである。
 本書は写真が綺麗で説得力があり,図表も多く診断のポイントが随所に記されているので読者に理解されやすいものとなっている。本書を熟読すれば,大腸上皮性腫瘍に関するほぼすべての事項が最新の知見と共に習得でき,病理医のみならず臨床医も必読の書と言えよう。